リオデジャネイロオリンピック観戦の方へ — 感染症情報 — 2/3
8月5日からリオデジャネイロ オリンピックが開幕となります。卓球競技は8月6日から17日の日程でリオデジャネイロ ハーバ地区「リオセントロパビリオン 3」を会場に行われます。 選手サポート、観戦などで、リオデジャネイロへの訪問を予定されている卓球関係者の方もいらっしゃることと思いますので、そのような方の参考にして頂きたく、感染症対策についての情報を提供致します。
2016年 7月 1日
有資格者各位
公益財団法人 日本卓球協会
スポーツ医・科学委員会
委員長 松尾 史朗
リオデジャネイロオリンピック観戦の方へ — 感染症情報 — 2/3
1. 蚊によって媒介される感染症
ジカ熱などの蚊に刺されることによって伝染する感染症について、注意が喚起されております。まずこれらの疾患の概略について説明致します。
① デング熱
2年前に東京の代々木公園で蚊に刺されて発症した患者さんが多発したことで有名になった病気です。
元々熱帯地方の感染症ですので、ブラジルでは注意が必要です。この病気は蚊(ネッタイシマカ、日中に活動する)によって媒介されるウイルス感染症です。都市部でも多く発生しており、毎年流行しています。先日、オリンピックが開催される8月はブラジルの冬にあたるので蚊の発生は少なくなるとのリオ組織委員会の見通しが示されましたが、冬といっても最高気温は25℃まで上がりますので蚊は居ます。
通常蚊にさされて5日前後で高熱・頭痛・関節痛・筋肉痛・下痢・食欲の減退といった症状が出現します。発熱は4~8日間継続してその後改善に向かいます。厄介なのは血液に異常を来すことがあるため(血小板が減少)、鼻出血、歯肉からの出血、生理出血の過多などが生じることです。
デング熱に対する特効薬はありません。そのため発熱には解熱剤、下痢による脱水には点滴による水分補給という具合に対処療法が行われます。血小板の減少が著しいデング出血熱の場合には入院治療が必要となります。
ネッタイシマカ(日本には居ない蚊)
ヒトスジシマカ(日本にいる蚊):これも感染の原因になる
② ジカ熱
デング熱と同じように蚊によって媒介される病気です。症状はデング熱よりも軽症です。蚊に刺されて数日後に、軽度の発熱、発疹、筋肉痛、関節痛、倦怠感、頭痛等の症状が見られますが、発症するのは20%くらいの人です。残りの80%はジカウイルスを持った蚊に刺されても発症しません。にもかかわらず現在大きな問題となっているのは、妊娠中の女性が感染すると子供に小頭症という異常を起こす可能性が示唆されているためです。そのためWHOでは妊婦はブラジルへ渡航しない様に勧告しています。
デング熱、ジカ熱ともに予防のためのワクチンはありません。従ってこれらの病気にならないようにするには蚊に刺されないようにする対策が重要です。
具体的にはなるべく肌を露出しない服を着用し、肌が露出した部分や衣服に有効成分の高い防虫剤(虫除けスプレー等)を2~3時間おきに塗布するなどの対策が有効です。虫刺され防止策については改めて紹介します。
ジカ熱については厚生労働省から多くの情報提供が行われています。
以下のサイトに情報がまとめられています。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000109881.html
③ 黄熱
これも蚊に刺されることによって感染する疾患です。デング熱、ジカ熱よりも重症な病気で、発病すると死亡率は20%と言われています。3~6日の潜伏期間の後、発熱、頭痛、筋肉痛、嘔吐が生じます。重症化するといくつもの臓器からの出血を生じたり、黄疸が生じたり、重症度が高く、高死亡率の病気です。特効薬はなく、症状を軽くするための対症療法しかありません。
黄熱についてはデング熱、ジカ熱と異なり予防接種があります。死亡率が高い病気であるだけに蚊に刺されないようにするとともに予防接種を受け、病気を未然に防ぐことが何より大切です。
このためアフリカ、南米などの黄熱の流行国では、入国に際して『ワクチンの接種証明書』を求めています。ワクチンを接種していなければ入国させないということです。ブラジルはこの証明書を入国の条件にはしておりませんが、国内に流行地域があります。
幸い卓球競技が行われるリオデジャネイロは『黄熱に感染する危険のある地域』ではなく、予防接種についても『推奨しない地域』に分類されていますので、卓球会場周辺のみへの渡航者は、予防接種の接種対象とはなりません(卓球選手団は予防接種なし)。
但し、サッカー代表などのようにリオデジャネイロ以外の地域で合宿、試合が予定されている場合には黄熱の予防接種の対象となっています。観光目的にリオデジャネイロ以外の都市を訪問する場合には『黄熱予防接種の推奨地域』についての情報を確認の上、予防接種を考慮すべきです。
2.その他の感染症
ジカ熱ばかりが注目されていますが、その他にも注意すべき感染症が幾つかあります。
① インフルエンザ
南半球にあるブラジルは日本と季節が逆になります。8月は冬です。もっとも冬であっても最高気温は25℃、最低気温18℃ですが、降水量が減り空気が乾燥しますのでインフルエンザが流行します。
日本では毎年冬を前に予防接種が行われますが、残念なことに、この夏を前にした時期に予防接種を行うことは困難です。製薬メーカーが薬剤を製造していませんので、予防接種を行うには海外からワクチンを輸入する必要があります。これは簡単ではありません。
従って、外出から帰った時の手洗い、うがいの励行、部屋の乾燥を防ぐという基本的な予防策を守ることで感染リスクを減らすことが大切です。
② 感染性胃腸炎・寄生虫症
ウイルス・細菌・真菌・原虫などの入った食べ物や水から感染し,下痢・腹痛・嘔吐・発熱などの症状を呈します。ブラジルに限った話ではなく、熱帯地方では共通して生じ得る疾患です。
以下の様な注意が必要とされます。
❏ 動物にはむやみに近づかない。
❏ 飲料水はミネラルウォーターのみにする。ジュースなどにも氷は入れない。
❏ 生ものやよく火の通っていない物は食べないようにする。
❏ 湖沼や河川には入らないようにする。むやみに土に触らない。
❏ 手洗いとうがいを励行する。
❏ 生野菜やカットフルーツもなるべく避ける。