JTTA指導者養成委員会


第12回 「得点と失点のバランスに基づくプレーの評価①」

今回から、スポーツ医・科学委員会委員の玉城将氏のコラムです。得点と失点のバランスからプレーを評価する方法についてまとめました。「良いプレー」とは何か、数字に基づいて考えます。

(日本卓球協会スポーツ医・科学委員会委員長 吉田和人)
2020.12.10 更新


第12回 「得点と失点のバランスに基づくプレーの評価①」

日本卓球協会スポーツ医・科学委員会委員
玉城将(名桜大学人間健康学部)

卓球競技は、より多く得点した方が勝つので、「積極的に相手から得点を奪う」ことを意識しがちです。私は高校生の頃、高い確率で得点を決める究極の方法は早い段階で決定率の高いスマッシュを打つことだと考え、少しでもネットより高い位置までボールが弾むと必ずスマッシュを打つという練習をしました。当然ですが、この戦術では試合に勝てませんでした。スマッシュのミスによって失点する確率も同時に高くなったためです。
相手が返球できないような打球を多く打ち出すことが戦術的に優れているとは限りません。重要なのは、得点と失点のバランスです。「失点を抑えることの重要性は理解している」と考える方は多いと思います。それでも、自分が3球目攻撃を100回すると、平均的に何回決まって得点になり、何回相手コートから外れて失点になるのか、知っている人はほとんどいないでしょう。そこで、「得点打率」、「失点打率」、「効果率」という考え方を紹介します。それぞれ、計算式を表1にまとめました。

 

表1 得点打率、失点打率、効果率
例えば、ある選手が3球目攻撃を10回行い、3回決まって得点になり、4回はミスして失点したとします。この時、得点打率は30%、失点打率は40%、効果率は-10%です。効果率は「100回打った時に相手よりも何点リードするか」と解釈すると理解しやすいです。つまり、この選手の3球目攻撃を100回繰り返すと、対戦相手が10点リードすることになります。得点打率を意識するあまり失点打率がそれ以上に高くなってしまい、本人は「自滅した」と感じるでしょう。このようにデータを活用すると、得点と失点のバランスを正確に把握できます。
ロンドンオリンピックの試合を対象に効果率を調査すると、男子選手の3球目の効果率は6%(得点打率26%、失点打率20%)、女子選手の3球目での効果率は5%(得点打率17%、失点打率12%)でした(Tamaki et al., 2017)。レシーブで相手に強打された場合や、3球目攻撃ができなかった場合を含む3球目の得点打率であることを踏まえて解釈する必要はありますが、それでも3球目を100回繰り返すことでリードできる点数が5、6点という結果は意外に低いと感じられます。皆さんの試合ではどうでしょうか?効果率は6%よりも大きいと思いますか?「得点打率」、「失点打率」、「効果率」は簡単に計算できます。データを活用して、自身の戦術や技術を再検討してみてはいかがでしょうか。
文献
Tamaki, S., Yoshida, K., and Yamada, K. (2017) A Shot Number Based Approach to Performance Analysis in Table Tennis. Journal of Human Kinetics, 55:7-18.