第1回 「子どもの競技開始年齢と練習量を あらためて考えてみませんか。」
今回は,副委員長でナショナルチームドクターの小笠博義氏が、競技開始年齢と練習量のデータをもとに、子どもの競技活動に関する考え方についてまとめました。
(日本卓球協会スポーツ医・科学委員会委員長 吉田和人)
2020.01.10 配信
第1回 子どもの競技開始年齢と練習量をあらためて考えてみませんか。
日本卓球協会スポーツ医・科学委員会副委員長
小笠博義(山口大学大学院医学系研究科)
日本卓球界は健全な選手の育成ができているのでしょうか?皆さんはどのように感じておられますか。長年、卓球競技の成長期の子どもたちに深く関わってきて感じることは、小学生の技術レベルの進歩が著しいということです。小学生とそのコーチの頑張りで、将来性豊かな子どもたちは増えています。一方で、将来を期待されながら、成長するにつれて勝てなくなる選手も大勢います。一般的に、スポーツに必要な運動能力は、脳神経系→呼吸循環系→骨格系の順に発達するので、コーチも動作の習得→粘り強さ→力強さの順に指導していくべきです。成長期の発達過程を無視して打球を重視した練習ばかりを反復すると、故障がおこりやすくなると考えています。
卓球競技の開始年齢は、平成の時代に急速に低下していることが日本卓球協会スポーツ医・科学委員会の調査(小笠、2012)で分かりました。小学生全国大会出場選手の競技開始年齢のピークは、平成4年が9歳、平成20年が6歳と低下し、図1のように出場選手の年齢分布も低下する方向に移動しています。
図1 小学生全国大会出場選手における競技開始年齢の推移(小笠、2012)
1週間の練習日数は5日以上が中心となり(図2)、1日平均3時間以上にも練習量は増加し、練習時間を多くすればするほど強くなれるという安易な考えもうかがえます。練習量が増加した結果、小学生の障害が増えてきていると検診現場で感じています。小学生が障害をおこさず、安全に一つの競技に専念する練習量は1日2時間、週5日がおおよその目安と一般的に考えられていますので、今後は練習の量だけではなく、質や内容を求めるべきです。子どもが集中できない練習をいくら増やしても意味がなく、故障の危険性を上げるだけです。ラケット競技として技術が優先される卓球ではありますが、成長するに従って激しい動きが要求されてきます。“手のひらを床につける、踵を浮かさずにしゃがみ込む、片脚で安定して立つ”などの基本動作ができない場合、柔軟性の低下、関節可動域制限、関節の不安定性があって、故障を引き起こす原因となりえます。打球練習だけを重視するのではなく、ストレッチングやラケットを用いないコーディネーショントレーニングなどの動作も練習として考えていく方がよいでしょう。
図2 小学生全国大会出場選手における1週間の練習日数の推移(小笠、2012)
文献:
小笠博義(2012)卓球における肩・肘・手関節障害. 臨床スポーツ医学, 29:267―273.