JTTA指導者養成委員会


第3回 「卓球選手の睡眠時間と食事と体調」

前回に引き続き,委員の木村典代氏のコラムです。栄養学の観点から、今回は「若いこどもたちの未来ある選手生命を守るためにも、技術的な練習だけではなく、生活リズムや食事内容にまで配慮すること」の重要性について解説しました。

(日本卓球協会スポーツ医・科学委員会委員長 吉田和人)
2020.03.10 更新


第3回 卓球選手の睡眠時間と食事と体調

日本卓球協会スポーツ医・科学委員会委員
木村典代(高崎健康福祉大学健康福祉学部)

公益財団法人日本卓球協会のスポーツ医・科学委員会では、2002年からtotoの助成を受けて、全国のトップレベルの小・中学生に対する栄養指導を行ってきました。第1回コラムでも紹介されていますが、日本の卓球選手の年齢層は、低年齢化してきています(小笠, 2012)。卓球選手としての健全な発育発達を促すためには、選手を取り巻く、生活環境が整っていることがとても重要です。そこで、2017年と2018年に食事・睡眠時間・コンディションについての調査を行いました。その結果の一部を紹介します。
この調査でわかったことは、練習時間が長く、練習終了時刻が遅くなるほど、睡眠時間が削られる傾向があることでした。睡眠は激しい練習で使った体を回復させる上で、選手にとっては非常に重要な時間です。したがって、練習時間が増えるほど、睡眠時間を多くする必要があるのです。しかし、小学生卓球選手の睡眠時間は平均すると8.2時間、中学生卓球選手は7.2時間でした。この頃に必要な睡眠時間は概ね8~10時間とも考えられており、年が若い程、より長い睡眠が必要となります。卓球選手の睡眠時間はそれと同等か、それよりも不足していることがわかります。 睡眠時間が削られると、体には様々な症状が現れます。「朝の目覚めが悪い」「日中眠たい」「授業に集中することができない」「口のはじが切れたり、口内炎ができたりする」などです。低年齢化している卓球選手にとって、このような状況が長く続くことは、選手としての寿命にも関わる重大なことです。
私たちの調査結果では、1週間に1日は完全休養日があり、かつ毎日9時間以上の睡眠をとっている選手は、コンディションの異常が少ないことがわかっています。
睡眠時間は起床時刻よりも就寝時刻の影響を受けます。小学生の選手が、睡眠時間を少なくとも9時間確保するためには、夜九時半までに布団入る必要があります。また、中学生の選手は どんなに遅くなっても十時半までには布団に入り8時間以上の睡眠時間を確保することが重要です。
対象となった選手のうち、10人に1人が夜の十時過ぎまで練習を行っているという衝撃の事実も判明しました。睡眠時間が十分に確保できるスケジュールになっているか確認する必要があるでしょう。
また、睡眠時間が9時間以上確保できない場合でも、少なくとも8時間以上の睡眠があり、かつ主食・主菜・副菜・果物・乳製品がそろったバランスのよい食事をしている選手は、比較的コンディションが維持できていることもわかってきました。
若いこどもたちの未来ある選手生命を守るためにも、技術的な練習だけではなく、生活リズムや食事内容にまで配慮することが大切です。

表1 コンディション維持のための睡眠とその他の生活習慣上の注意事項