JTTA指導者養成委員会


第8回 「上級者と中級者のラケットの加速能力の違いはどこから生まれるか?」

前回に引き続き、副委員長の飯野要一氏のコラムです。競技レベルによるラケットの加速能力の違いとそれから示唆される筋力トレーニングの方法について解説しました。

(日本卓球協会スポーツ医・科学委員会委員長 吉田和人)

 

2020.08.10 更新

 

第8回 「上級者と中級者のラケットの加速能力の違いはどこから生まれるか?」

 

日本卓球協会スポーツ医・科学委員会副委員長
飯野要一(東京大学大学院総合文化研究科)

 

前回のコラム(第7回「ラケットの加速能力と競技レベルの関係」)で、上級者の大学生は、中級者の大学生と比べてラケットの加速能力が高いことを紹介しました。カメラで測定した動きのデータから筋の活動を推定することで、加速能力の差を生み出す原因に迫ることができます。以下に、大学(関東学生リーグ)1部の上級者と同リーグ大学3部の中級者について、全力のフォアハンドドライブ中の肩、肘、手関節まわりの筋による関節の回転作用を調べた研究結果(Iino & Kojima, 2011)を紹介します。また、関連して卓球選手の筋力トレーニングについても考えてみます。
フォアハンドドライブ中、肩関節を内旋する筋(肩甲下筋、大胸筋、広背筋など)は、一度伸ばされた後、短くなる伸張―短縮サイクル運動と呼ばれる様式で活動していると推定されました。肩を内旋する筋による関節を回転させる力は、上級者の方が中級者と比べて統計的に有意に大きいことがわかりました(図1)。また、上級者は中級者と比べて、この大きな回転力のおかげでより大きなエネルギー伝達率で短時間に体幹からラケットを持つ腕にエネルギーを伝えていることが示されました(図2)。肩関節を内旋する筋以外では上級者と中級者に明確な差が見られなかったことから、上級者のラケットの加速能力が高かった主な理由は、肩関節を内旋する筋の力発揮が大きかったためであると考えられます。

 

図1:肩関節内旋筋の関節回転力の最大値

 

図2:肩関節の内旋筋によるエネルギー伝達率の最大値

 

この原因として2つの可能性が考えられます。一つは、測定を行った中級者は肩関節を内旋する筋力が十分に大きくなかった可能性です。もう一つは、筋力はあるにも関わらず実際のドライブ動作において筋力を発揮できなかった可能性です。筋力自体が不足している場合には、まずはチューブやマシンを用いた基礎的トレーニングを行うことが効果的でしょう。一方、筋力はあるのに実際の動作で力を発揮できない場合には、メディシンボールを用いたトレーニングなどドライブ動作に近い動きを取り入れたトレーニングが有効であると考えられます。
前々回のコラム(第6回目「ドライブ打法においてラケットスピードはどのように生み出されているか?」)の結果も合わせて考えると、威力あるフォアハンドドライブを打てるようになるには、特に股関節、体幹、肩関節まわりの筋力をバランスよく鍛えることが重要であると言えるでしょう。自分の全身の筋力レベルを正しく把握して、その結果を踏まえて、比較的弱い部分を強くするという視点も重要です。残念ながら、卓球競技に特化したトレーニングに関する研究はまだとても少ない状況にあります。今後、この分野の研究が進むことが期待されます。
最後に筋力トレーニングを効果的に安全に行うには、トレーニングに関する知識が必要です。本を読むなどして基礎的知識を学び、可能であればアスレティックトレーナーなど専門家に相談して行うようにしてください。

 

文献
Iino Y., Kojima T. Kinetics of the upper limb during table tennis topspin forehands in advanced and intermediate players. Sports Biomechanics, 10, 361–377, 2011